ヨーロッパ地誌-概説②

表記について

国家群

第二次世界大戦の要因には、次のことがあげられます。
大戦後、ヨーロッパの統合を目指す国家群の形成が進みました。

EU・EFTAの歩み

ECSC・EEC・EURATOM・EC

ドイツフランスイタリア・ベネルクス3国(ベルギーオランダルクセンブルク)の6ヵ国で、ヨーロッパ統合のための国家群が形成されました。
1967年、EC(ヨーロッパ共同体)
ECSC・EEC・EURATOMが統合され、新たに結成された国家群

EU

1989年、ベルリンの壁崩壊とともに冷戦が終わりました。
ヨーロッパにおける安全保障の環境が大きく変化し、ECはより一層結束を強めていく必要がありました。
1993年、EU(ヨーロッパ共同体)
マーストリヒト条約締結により、ECを基礎に新たに結成された国家群
EUの運営を担う主要機関は複数の国に分散(本部はベルギーのブリュッセル)
EUは、EFTAの脱退国や旧ソ連の東ヨーロッパ諸国を加えて拡大してきました。
2020年、イギリスは移民の流入を嫌ってEUを離脱しました。
2020年現在、EUには27ヵ国が加盟しています。
スイス・ノルウェーは非加盟国
EUの加盟国
EUの加盟国

EFTA

1960年、EFTA(ヨーロッパ自由貿易協定)
政治・外交の共通化を嫌うイギリスが、EECに対抗し、あくまでも経済・貿易の共通化を目指す国家群として結成
国同士の結びつきはEECに比べて緩やか
原加盟国はイギリス・スイス・ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・ポルトガル・オーストリア
ECの市場が成長すると、EFTAから脱退してECに加盟する国が現れました。
1973年にはイギリス・デンマークが、1986年にはポルトガルが、EFTAを脱退してECに加盟しました。
現在、EFTA加盟国はスイス・ノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタインです。
EUの歩み
EUの歩み
続・EUの歩み
続・EUの歩み

EUの諸機関・諸政策

欧州議会

欧州議会は、EUの運営について討議する議会です。
欧州議会の本会場は、フランスのストラスブールにあります。
ストラスブール
フランス東部のアルザス地方の中心地で、ドイツとの国境沿いに位置し、同地方・ロレーヌ地方で産出する石炭・鉄鉱石をめぐって両国が過去に幾度も対立
欧州議会の本会場を設置した理由は、ヨーロッパの平和の実現を目指してのこと
ストラスブール
ストラスブール

シェンゲン協定

シェンゲン協定は、協定への加盟国間で、国境検査なし(パスポート検査なし)での移動を許可する協定です。

ユーロ

ユーロ(€)は、EUで導入した単一通貨であり、ユーロ加盟国内で使用できます。
加盟国は、欧州中央銀行の金融政策に従う必要があります。
欧州中央銀行
ユーロ通貨圏の金融政策を担う中央銀行で、本部はドイツのフランクフルト
EU加盟国の全てがユーロを導入しているわけではありません。
例えば、1人あたりGNIが高いデンマークは、EU発足時から加盟していますが、ユーロを導入していません。
EU加盟国(2020年)*脱退国含む
国名1人あたりGNI(ドル)GNI(億ドル)ユーロ導入
ルクセンブルク73,500.0465
アイルランド64,150.03,204
デンマーク63,070.03,678
スウェーデン54,060.05,597
オランダ51,060.08,906
フィンランド49,700.02,749
オーストリア48,020.04,282
ドイツ47,060.039,169
ベルギー45,180.05,221
フランス39,400.026,551
イタリア32,200.019,176
スペイン27,320.012,936
キプロス26,110.0233
マルタ25,370.0133
スロベニア24,800.0521
エストニア23,370.0311
チェコ22,070.02,361
ポルトガル22,000.02,267
リトアニア19,410.0542
スロバキア18,700.01,021
ギリシャ18,080.01,937
ラトビア17,590.0334
ハンガリー16,010.01,561
ポーランド15,270.05,797
クロアチア14,190.0574
ルーマニア12,570.02,424
ブルガリア9,540.0661
イギリス38,950.026,183

農業政策

EUの基本的な農業政策は、共通農業政策と呼ばれています。
域内の流通
EUでは、関税を撤廃したことで、生産性の高い国の農産物(安価な農産物)が出回ります。
生産性の低い国の農産物が売れないため、生産性が低い国の価格にあわせて域内統一価格を設定します。
共通農業政策(域内)
共通農業政策(域内)
上図の仕組みでは、補助金を頼りにした生産過剰に陥りやすく、EUの財政負担が増すばかりでした。
現在では、域内統一価格の基準を引き下げ、赤字を出した農家には補助金を出すように転換しました。
共通農業政策(域内)
共通農業政策(域内)
域外との貿易
安価な農産物の輸入は、域内の農産物の売れ行きに影響します。
EUでは、輸出入時に価格を調節するようにしています。
この取り組みは、域外の国から「保護貿易」と非難を受けています。
共通農業政策(貿易)
共通農業政策(貿易)

農業

農業の歴史

古代

古代は、地力の消耗を防ぐために、収穫後は一年休閑させました。
土地を2つにわけ、一方を耕作、他方を休閑としたので、二圃式と呼ばれています。

中世

二圃式は効率が悪いため、土地を3つにわけ、うち2つを耕作、残りを休閑とする三圃式に変化しました。
やがてカブやクローバーに地力を回復させる効果があるとわかり、休耕地ではその栽培と放牧をするようになりました。

現代

現在のヨーロッパの農業形態は、二圃式・三圃式が変化し、次の4分類ができたと考えられています。
ヨーロッパの農業形態の変遷
ヨーロッパの農業形態の変遷

ヨーロッパの土地利用

ヨーロッパの土地利用(2019年)
国名耕地率(%)牧場・牧草地率(%)森林率(%)農民1人あたり耕地(ha)就農率(%)
アイルランド6.459.211.34.44.4
イギリス25.347.113.217.41.1
イタリア31.512.832.210.23.9
オランダ31.122.810.95.72.1
スイス10.727.432.03.42.6
スウェーデン6.21.168.730.31.7
スペイン33.518.937.221.04
デンマーク60.55.215.738.22.2
ドイツ34.113.632.723.21.2
ノルウェー2.20.533.314.42
ハンガリー49.28.722.520.94.7
フィンランド7.40.173.723.23.8
フランス34.817.431.427.22.5
ポルトガル18.520.536.16.35.5

アイルランド・イギリス

年間を通して降水があるアイルランドやイギリスは、牧草地が発達します。
両国のうち、イギリスは就農率が低いです。
就農率は先進国ほど低い傾向
イギリスの羊と牧草地
イギリスの羊と牧草地

ノルウェー・スウェーデン・フィンランド

かつて氷食を受けてやせ地が多く、耕地率が低くなります。
北欧の国は森林率が高い傾向にありますが、ノルウェーは南北に長い海岸線をもち、スウェーデン・フィンランドに比べて森林率がそれほど高くありません。

デンマーク

牧場・牧草率が5%ですが、世界有数の酪農国です。
狭い土地を効率よく利用するために、家畜を放牧せずに舎飼いしているからです。

中南ドイツ・ハンガリー

北ドイツ平原などのモレーンから飛来した砂が透過性の良いレスを形成して畑作が盛んです。
ハンガリー平原
ハンガリー平原

ヨーロッパの農業分布

酪農:氷食を受けた地域(北海沿岸・バルト海沿岸・アルプス地方)
混合農業:ヨーロッパ中部
*ドイツ・ポーランドはライ麦・ジャガイモの栽培、豚の飼育
*フランス・イタリアは小麦の栽培、肉牛の飼育
地中海式農業:地中海沿岸
*夏にオリーブ・ブドウ・柑橘類の栽培
*冬に小麦の栽培
ヨーロッパの農業
ヨーロッパの農業
オランダの花卉栽培
オランダの花卉栽培
フランスのブドウ畑
フランスのブドウ畑
*ケスタの斜面
デンマークの酪農場
デンマークの酪農場
スイスの移牧
スイスの移牧
ドイツの混合農業
ドイツの混合農業
スペインのオリーブ畑
スペインのオリーブ畑

主な生産物の統計データ

小麦

総生産量では中国やインドには及びませんが、1haあたりの生産量を見ると、イギリスやフランスなどヨーロッパ諸国が上位になります。
小麦の生産
国名万t(2019年)
中国13,360
インド10,360
ロシア7,445
アメリカ5,226
フランス4,060
カナダ3,235
ウクライナ2,837
パキスタン2,435
ドイツ2,306
アルゼンチン1,946
トルコ1,900
オーストラリア1,759
イラン1,680
イギリス1,622
小麦の生産
国名t/ha(2019年)
イギリス8.93
フランス7.74
ドイツ7.4
中国5.63
ウクライナ4.16
インド3.53
アメリカ3.47
カナダ3.35
アルゼンチン3.22
パキスタン2.81
トルコ2.78
ロシア2.7
イラン2.09
オーストラリア1.69

とうもろこし

ヨーロッパは夏の気温があまり高くないため、とうもろこしの栽培が苦手です。
ただし、フランスでは例外的に多く生産されています。
とうもろこしの生産
国名万t(2019年)
アメリカ34,704
中国26,077
ブラジル10,113
アルゼンチン5,686
ウクライナ3,588
インドネシア3,069
インド2,771
メキシコ2,722
ルーマニア1,743
ロシア1,428
カナダ1,340
フランス1,284

じゃがいも

じゃがいもの生産
国名万t(2019年)
中国9,182
インド5,019
ロシア2,207
ウクライナ2,027
アメリカ1,918
ドイツ1,060
バングラデシュ966
フランス856
オランダ696
ポーランド648

ライ麦

ライ麦の生産
国名万t(2019年)
ドイツ324
ポーランド242
ロシア143
デンマーク88
ベラルーシ76
中国51

てんさい

てんさい
てんさい
てんさいの生産
国名万t(2019年)
ロシア5,435
フランス3,802.4
ドイツ2,972.8
アメリカ合衆国2,594.5
トルコ1,808.6
ポーランド1,383.7

ぶどう

地中海性気候が分布するイタリアやスペイン、ケスタで知られるパリ盆地があるフランスが、世界有数の生産国です。
ぶどうの生産
国名万t(2019年)
中国1,428
イタリア790
アメリカ623
スペイン575
フランス549
トルコ410

オレンジ類

オレンジ類の生産
国名万t(2019年)
中国3,014.3
ブラジル1,805.8
インド950.9
アメリカ合衆国581.9
メキシコ522.3
スペイン505.3

オリーブ

地中海性気候が分布するイタリアやスペインが、世界有数の生産国です。
オリーブ
オリーブ
オリーブの生産
国名千t(2019年)
スペイン5,965.1
イタリア2,194.1
モロッコ1,912.2
トルコ1,525
ギリシャ1,228.1
エジプト1,080.1

狭い面積でたくさん飼えるので、国土面積が小さいデンマークやオランダには養豚がうってつけです。
豚の頭数
国名万頭(2019年)
中国31,040
アメリカ7,865
ブラジル4,055
スペイン3,124
ドイツ2,605
豚肉の生産
国名万t(2019年)
中国4,255
アメリカ1,254
ドイツ523
スペイン464
ブラジル412

羊の頭数
国名万頭(2019年)
中国16,349
インド7,426
オーストラリア6,576
ナイジェリア4,689
イラン4,130
スーダン4,090
チャド3,586
トルコ3,519
イギリス3,358
モンゴル3,227
羊毛の生産(脂付)
国名千t(2019年)
中国341
オーストラリア328
ニュージーランド122
イギリス70
トルコ65
モロッコ64

酪農品

牛乳の生産
国名万t(2019年)
アメリカ9,906
インド9,000
ブラジル3,589
ドイツ3,308
中国3,201
ロシア3,109
チーズの生産
国名千t(2019年)
スペイン5,965
イタリア2,194
モロッコ1,912
トルコ1,525
ギリシャ1,228
エジプト1,080

農業生産額

農家1戸あたりの農業生産額は、収益性の高い酪農や園芸農業をおこなうオランダ・ベルギー・デンマークで高く、耕地が広く生産性が高いドイツが続きます。

南ヨーロッパは、気候の関係で果樹栽培が中心になり、また、東ヨーロッパは市場から遠く、農業の近代化が遅れるため、農家1戸あたりの農業生産額が低くなります。
ヨーロッパの農業生産額
ヨーロッパの農業生産額

食料自給率

主な国の品目別食料自給率(2017年、%、カロリーベース)
主な国の品目別食料自給率(2017年、%、カロリーベース)
*日本の統計年次は2019年

鉱工業

産業革命~エネルギー革命

次の地域で原料指向型の重化学工業が発達しました。
資源の枯渇や1960年代に生じたエネルギー革命(石炭消費中心から石油消費中心への転換)で衰退しました。
以降、多様な工業化が各地で進展しました。
ヨーロッパの工業
ヨーロッパの工業(エネルギー革命まで)

エネルギー革命以降

臨海指向型の重化学工業

イギリス:
ミドルズブラ[鉄鋼]、カーディフ[鉄鋼]
フランス:
ダンケルク[鉄鋼]、マルセイユ[石油化学]
オランダ:
ロッテルダム[石油化学]

総合工業

イギリス:ロンドン
フランス:パリ

自動車工業・航空機工業

ドイツ:
シュツットガルト[自動車工業]、ミュンヘン[自動車工業・ビール工業]
イタリア:
トリノ[自動車工業](ミラノ・ジェノヴァとともに工業地帯を形成)
スペイン:
バルセロナ[自動車工業]
フランス:
トゥールーズ[航空機](EU域内で生産した部品の最終組み立て地)

伝統産業(繊維・皮革)

イタリア:
ヴェネツィア、フィレンツェ
第3のイタリア」と呼称
ヨーロッパの工業
ヨーロッパの工業

東ヨーロッパ

東ヨーロッパ諸国は、西ヨーロッパ諸国に比べて工業化に遅れています。
賃金が低く、外国企業の工場が進出しています。

主な生産物の統計データ

自動車

自動車の生産
国名千台(2019年)
中国25,751
アメリカ10,893
日本9,685
ドイツ4,947
インド4,524
メキシコ4,013
韓国3,951
ブラジル2,945
スペイン2,823
フランス2,175

粗鋼

粗鋼生産
国名万t(2020年)
中国56.6
インド5.3
日本4.4
アメリカ3.9
ロシア3.8
韓国3.6

アルミニウム

アルミニウムの生産
国名万t(2020年)
中国3,708
ロシア386
インド347
カナダ311
アラブ首長国連邦251
オーストラリア159
バーレーン155
ノルウェー143

毛織物

毛織物の生産
国名万㎡(2020年)
チェコ1,401
アメリカ1,232
イギリス1,053
ロシア913
ドイツ635
ウクライナ499
ポルトガル328
リトアニア280

パルプ

パルプの生産
国名万t(2020年)
アメリカ4,990
ブラジル2,102
中国1,791
カナダ1,484
スウェーデン1,157
フィンランド1,012
ロシア887
インドネシア819
日本707

ワイン

ワインの生産
国名万t(2019年)
イタリア492
フランス417
スペイン337
アメリカ258
中国207
アルゼンチン130
オーストラリア120
チリ119

ビール

原料の大麦が寒さに強いため、ヨーロッパの北方でよく生産されます。
ビールの生産
国名万kL(2019年)
中国3,893
アメリカ2,146
ブラジル1,414
メキシコ1,198
ドイツ937
ロシア775
日本511
ベトナム430
イギリス423

鉄鉱石

鉄鉱石の生産
国名百万t(2019年)
オーストラリア569
ブラジル258
中国219
インド148
ロシア64.3
南アフリカ共和国41.2
ウクライナ39.5
カナダ35.2
アメリカ29.8
スウェーデン22.1

石炭

石炭の生産
国名百万t(2018年)
中国3,697.7
インド728.7
インドネシア548
オーストラリア410.9
ロシア358.6
アメリカ合衆国325.8
南アフリカ共和国255.6
カザフスタン101.1
コロンビア84.3
ポーランド63.9

天然ガス

天然ガスの生産
国名億?(2019年)
アメリカ9,622
ロシア7,661
イラン2,327
カナダ1,880
中国1,762
カタール1,676
オーストラリア1,371
ノルウェー1,190
サウジアラビア982
アルジェリア900

一次エネルギーの構成

ドイツ

フランス

ポーランド

デンマーク

ノルウェー

アイスランド