ロシアと周辺国の地誌-概説

表記について

地形

3つの地域区分

ロシアと周辺国が広がる地域は、次の3つに大きく区分されます。
ロシアと周辺国の地域区分
ロシアと周辺国の地域区分

ヨーロッパロシアの地形

大地形

ヨーロッパロシアはウラル山脈より西側の地域です。
大部分を安定陸塊が占め、一部に古期造山帯と新期造山帯が分布します。
シベリアとの境界であるウラル山脈は、平均標高900m~1200mで古期造山帯に分類され、黒海からカスピ海まで走るカフカス山脈は、新期造山帯に分類されます。
ウラル山脈は東経60度にほぼ一致

河川

カスピ海に注ぐヴォルガ川はヨーロッパ最長です。
ヨーロッパロシアの地形
ヨーロッパロシアの地形

シベリア・極東ロシアの地形

シベリア

シベリアは、ウラル山脈より東側のうち、バイカル湖辺りまでの地域を指します。
大部分が安定陸塊です。

極東ロシア

極東ロシアは、バイカル湖辺りから太平洋に接する地域までを指します。
新期造山帯が広く分布します。
特に環太平洋造山帯に含まれるカムチャッカ半島には、火山が多く分布しています。
カムチャッカ半島の別名は「火山の博物館」
シベリア・極東ロシアの地形
シベリア・極東ロシアの地形

シベリアと極東ロシアの境に位置するバイカル湖は、世界で最も深い断層湖です。
世界の湖
世界の湖
湖の湖面標高・湖底標高
湖の湖面標高・湖底標高
タンガニーカ湖
タンガニーカ湖はアフリカ大地溝帯の直上に位置し、世界で2番目に深い湖です。
アフリカ大陸が台地高原状なので、バイカル湖に比べて湖面標高が高い位置にあります。
チチカカ湖
アンデス山脈の中央に位置するチチカカ湖は、船が運航できる湖のなかで、湖面標高が最も高いです。

河川

シベリアや極東ロシアを流れるオビ川・エニセイ川・レナ川などは、冬季に河川が凍結し、流量がほとんどありません。
5~6月頃に緯度が低い上流の氷が融け、流量が急激に増加します。
下流がまだ凍結しているところに上流の水が流れ込むため、川の水があふれて洪水が発生します(融雪洪水)。
ロシアの河川
ロシアの河川

気候

ロシアと周辺国の気候
ロシアと周辺国の気候

ヨーロッパロシアの気候

大部分:
亜寒帯湿潤気候(Df)
黒海北岸~カスピ海北岸:
ステップ気候BS
黒海北岸から東にかけて、肥沃な黒色土チェルノーゼムが分布
黒海北岸付近は世界有数の小麦の栽培地域

シベリア・極東ロシアの気候

シベリアの気候

大部分:
亜寒帯湿潤気候Df
北極海沿岸:
ツンドラ気候ET

極東ロシアの気候

冬季にシベリア高気圧に覆われて低温・少雨
亜寒帯冬季少雨気候Dw
寒極
寒極とは、北半球・南半球それぞれで最低気温が観測された地点のことです。
北半球の寒極は極東ロシアのオイミャコンで、1933年に-67.8℃が観測されました。
この地は、北極圏に近くて冬季の日照時間が短く、盆地で冷気がとどまるために気温が低くなります。
同地で1926年に観測された-71.2℃という記録は正確性に疑いあり
-67.7℃という数値も散見するが、世界気象機関のデータに準拠
2020年、世界気象機関が北半球の観測史上最低気温をグリーンランドの-69.6℃と発表
オイミャコン
オイミャコン

シベリア・極東ロシアの植生と土壌

亜寒帯(冷帯)の地域
針葉樹林の純林タイガが広範囲に分布します。
タイガの分布地域では、低温のため腐食の分解が進まず、下方に移動する水分によって塩類や鉄分が溶脱し、灰白色の層が形成されます。
この土壌をポドゾルと呼び、酸性で農耕に適しません。
タイガ
タイガ
ポドゾル
ポドゾル
ツンドラ気候の地域
地面がほとんど一年中凍結して硬くなった、ツンドラと呼ばれる状態が見られます。
土地低温で蒸発量が少ないため、夏に生えるコケ類や地衣類の分解が進まず、多湿状態で泥炭化しています。
形成された土壌をツンドラ土と呼び、酸性で農耕に適しません。
地衣類
地衣類
シベリアのツンドラ
シベリアのツンドラ
永久凍土
ポドゾルやツンドラ土の下層には、2年以上凍結した土壌永久凍土が広がります。
永久凍土が不動の層であるとすれば、上層のポドゾルやツンドラ土は活動層と言えます。
ポドゾルと永久凍土の関係
ポドゾルと永久凍土の関係
永久凍土の分布
永久凍土の分布
近年、タイガの伐採が進行し、伐採跡地直射日光が当たるようになりました。
結果、凍土の一部が融解し、タイガ地帯が湿地や沼地に変わってしまう問題が起きています。
タイガの伐採後
タイガの伐採後

衣食住

住居

シベリアや極東ロシアの建物は、暖房の熱が永久凍土を融かさないように、コンクリートの支柱で高床にしています。
イルクーツクの建物
イルクーツクの建物
シベリアの高床住居
シベリアの高床住居

各都市の雨温図

ロシアの都市
ロシアの都市
モスクワ
モスクワは、ロシア連邦の首都です。
亜寒帯低圧帯高緯度低圧帯)に覆われ、年間を通して降水があります。
モスクワの雨温図
モスクワの雨温図(Df)
サンクトペテルブルク
サンクトペテルブルクは、ロシア連邦の人口第2位の都市です
バルト海に面する重要な港湾都市で、造船業が盛んです。
亜寒帯低圧帯高緯度低圧帯)に覆われ、年間を通して降水があります。
サンクトペテルブルクの雨温図
サンクトペテルブルクの雨温図(Df)
アストラハニ
アストラハニ(アストラハン)は、ロシア連邦南部の都市です。
黒海北岸~カスピ海北岸は降水量が少なくなります。
アストラハニの雨温図
アストラハニの雨温図(BS)
ディクソン
ディクソンは、ロシア連邦で最北に位置する港町です。
ディクソンの雨温図
ディクソンの雨温図(ET)
イルクーツク
イルクーツクは、バイカル湖の南西部に位置する都市です。
シベリア鉄道のほぼ中央にあり、交通の要衝です。
冬季はシベリア高気圧の影響で少雨になります。
イルクーツクの雨温図
イルクーツクの雨温図(Dw)
ウラジオストク
ウラジオストクは、極東ロシア最大の港湾都市です。
シベリア鉄道の終点、太平洋岸におけるロシア連邦の重要な港です。
冬季はシベリア高気圧の影響で少雨になります。
ウラジオストクの雨温図
ウラジオストクの雨温図(Dw)

言語・宗教・民族

ロシアと周辺国の宗教
ロシアと周辺国の宗教

ロシア連邦・ウクライナなど

言語:
インド=ヨーロッパ語族のスラブ語派
文字はキリル文字を使用
宗教:
キリスト教の東方正教
ロシア連邦内ウラル山脈西に居住するタタール人、カフカス地方に居住するチェチェン人はイスラームの信者が多数
キリル文字の「止まれ」
キリル文字の「止まれ」

民族問題

ロシア連邦内では、次の民族が分離独立を目指しています。

中央アジアの国々(カザフスタン・ウズベキスタンなど)

言語:
アルタイ語族
宗教:
イスラーム

バルト三国

バルト三国は、バルト海沿岸のエストニアラトビアリトアニアの3国を指します。
3国でまとめられますが、宗教・言語などで相違点も多くあります。
バルト三国は旧ソ連構成国だが、CISには非加盟
インド=ヨーロッパ語族と他の語族の分布
インド=ヨーロッパ語族と他の語族の分布

エストニア

言語:
ウラル語族
宗教:
キリスト教のプロテスタント

ラトビア

言語:
インド=ヨーロッパ語族のバルト語派
宗教:
キリスト教のプロテスタント

リトアニア

言語:
インド=ヨーロッパ語族のバルト語派
宗教:
キリスト教のカトリック

カフカス地方(コーカサス地方)

ジョージア・アルメニアではキリスト教が、アゼルバイジャンではイスラームが多く信仰されています。
カフカス地方は宗教・民族が混在し、紛争が発生しています。
1990年代、イスラームの信者が多いチェチェン人と、彼らの分離独立を認めないロシア連邦との間でチェチェン紛争が発生しました。
カフカス地方の民族
カフカス地方の民族

歴史・経済

第一次世界大戦後

1922年、15の社会主義国でソビエト連邦(ソ連)を構成しました。
ソ連は経済全体を意識的に管理・運営する計画経済をとりました。
ソビエト連邦の構成国
ソビエト連邦の構成国

第二次世界大戦後

ソ連中心の陣営とアメリカ合衆国中心の陣営が、冷戦と呼ばれる対立状態になりました。
ソ連は次第に経済が停滞し、社会主義の限界が露呈しました。

現代

1991年、バルト三国をはじめソ連の構成国が独立し、ソ連が崩壊しました。
ソ連崩壊のさなか、バルト三国を除く旧ソ連の構成国は、経済・外交を協力する独立国家共同体CIS)を結成しました。
かつての構成国は、自由競争で価格や需要供給を調整する市場経済へ移行しましたが、移行による混乱で経済停滞が続きました。
CISからは、ジョージアが2009年に脱退し、ウクライナも脱退手続きをおこなっています。
現状のCISは各国の利害が一致せず、形骸化の傾向がみられます。
CISの加盟国(結成当初)
CISの加盟国(結成当初)

農業

ソ連時代

社会主義体制(計画経済)下、次のような農業の集団化をおこないました。
いずれの形態でも生産物は国の計画に基づき、生産物は国に引き渡されました。
ソフホーズは「ソ」は「ソ連」のことと覚えると、国営とわかりやすい
ダーチャ
都市住民の多くがもつ、郊外の家庭菜園付きの簡単な別荘
自給用の野菜や果実が栽培されており、社会主義体制時代やその後の混乱期に食料確保の手段として機能

体制移行後

1991年にかけてソ連が崩壊し、構成国は社会主義体制(計画経済)から資本主義体制(市場経済)に移行しました。
1990年代の体制が移行した直後は、経済がマイナス成長で国家危機を迎えました。
2000年代に入ると豊富な石油資源を中心に、資源外交を展開し、1人当たり国民総所得(GNI)の数値が急激に上昇しました。

各地域の生産

ロシアと周辺国の農業
ロシアと周辺国の農業
ロシア
寒さに強い小麦・てんさい・じゃがいもの生産
ウクライナ南部(黒海北部)~西シベリア南部
黒色土チェルノーゼムが分布し、小麦を生産
北極海沿岸
トナカイの遊牧
中央アジア(カザフスタン~ウズベキスタン)
遊牧や灌漑による綿花の生産
小麦の生産
国名万t(2019年)
中国13,360
インド10,360
ロシア7,445
アメリカ5,226
フランス4,060
カナダ3,235
ウクライナ2,837
パキスタン2,435
ドイツ2,306
アルゼンチン1,946
トルコ1,900
オーストラリア1,759
イラン1,680
イギリス1,622
ライ麦の生産
国名万t(2019年)
ドイツ324
ポーランド242
ロシア143
デンマーク88
ベラルーシ76
中国51
じゃがいもの生産
国名万t(2019年)
中国9,182
インド5,019
ロシア2,207
ウクライナ2,027
アメリカ1,918
ドイツ1,060
バングラデシュ966
フランス856
オランダ696
ポーランド648
綿花の生産
国名万t(2019年)
インド603
中国489
アメリカ434
ブラジル269
パキスタン156
トルコ81
ウズベキスタン77