南アジア地誌

表記について

地形

南アジアの主な地形は次の図の通りです。
南アジアの地形
南アジアの地形

北部とインド亜大陸

南アジア北部の大地形は新期造山帯、インド亜大陸の大地形は安定陸塊です。
インド亜大陸
インド半島という表記も存在

インド亜大陸は、かつてのゴンドワナ大陸の一部であり、北上してユーラシア大陸に衝突しました。
インド亜大陸は、北上の過程でホットスポットを通過し、溶岩台地のデカン高原を形成しました。
溶岩台地はホットスポット通過時のものであり、インド亜大陸自体には火山はありません。
衝突で形成された褶曲山脈がヒマラヤ山脈であり、現在も成長を続けています。
デカン高原
玄武岩でできた溶岩台地で、平均標高約600m
玄武岩が風化した間帯土壌のレグールが分布
インド亜大陸の北上
インド亜大陸の北上

南北の高低

次の図のⒶⒷ間の断面は、下図のようになります。
断面ⒶⒷ
南アジアの断面図
南アジアの断面図
北からテンシャン山脈、タリム盆地、クンルン山脈~ヒマラヤ山脈に続くチベット高原、そして南にヒンドスタン平原が広がります。

河川

ガンジス川

ヒマラヤ山脈からヒンドスタン平野を東流してベンガル湾に注ぐ河川です。
下流でブラマプトラ川と合流し、河口には三角州が発達します。
ガンジス川の河口がほぼ東経90度と覚えておくと、地図の位置関係の把握に役立つ
ガンジス川
ガンジス川

気候

南アジアの気候
南アジアの気候

季節風と山脈

南アジアは次のように季節風の影響を受けます。
11~4月:北東季節風で少雨
5~10月:南西季節風で多雨
上記の季節風は、西ガーツ山脈とヒマラヤ山脈に遮られるため、風上で湿潤、風下で乾燥します
南アジアの季節風(夏) 南アジアの季節風(冬)
南アジアの季節風

熱帯低気圧

インド洋ではサイクロンと呼ばれる熱帯低気圧が発生し、人やモノに被害をもたらします。
サイクロン
台風と定義がやや異なるが同じ性質
サイクロン
サイクロン

各都市の雨温図

南アジアの都市
南アジアの都市
カラチはパキスタンの最大都市です。
パキスタンあたりでは上昇気流が生じる「風+山脈」の組み合わせがなく、夏の南西季節風の影響は小さいものです。
それでも7~9月には降水があり、全体として砂漠気候に区分されてはいますが、同じ気候の他地域と比べて降水量が多い方です。
カラチの雨温図は、パキスタンの西側にイラン・イラクなど乾燥帯の国があることからも予想可能
カラチの雨温図
カラチの雨温図(BW)
ムンバイはインドの都市です。
西ガーツ山脈の西側に位置し、夏は南西季節風の影響で多雨、冬は乾燥します。
ムンバイの雨温図
ムンバイの雨温図(Aw)
コロンボはスリランカの都市です。
赤道に近く、年間を通して湿潤で気温が高い気候です。
なお、太陽の見かけの通り道がコロンボ付近を通る5、10月頃は、最も降水量が多くなります。
コロンボの雨温図
コロンボの雨温図(Af)
カトマンズはネパールの首都です。
夏は南西季節風が吹きこみ、ヒマラヤ山脈の風上に位置するため降水量が多くなります。
反対に冬は北東季節風の風下になり、乾燥します。
カトマンズの雨温図
カトマンズの雨温図(Cw)
コルカタはインドの都市です。
夏は季節風が吹きこみ、降水量が多くなります。
カトマンズに比べ、気温が高くなります。
コルカタの雨温図
コルカタの雨温図(Aw)

歴史・宗教

南アジアは第二次世界大戦の直後までイギリスの植民地でした。
イギリスの植民地時代のインドでは、ヒンドゥー教徒とイスラーム教徒(ムスリム)が別々の国で独立するか一体となって独立するかが争われました。
宗教的対立は修復できず、宗教という線引きで分離独立に至りました。
1947年
インド独立(主な宗教:ヒンドゥー教
パキスタン独立(主な宗教:イスラーム
パキスタン
この時点では西パキスタンと東パキスタンで構成
東西の宗教はともにイスラームだが、言語などで差異があり、東パキスタンが後にバングラデシュとして分離
1948年
スリランカ独立(主な宗教:仏教
1948年の独立はイギリス連邦内の自治領としての独立(完全独立は1972年)
1971年
バングラデシュ分離(旧東パキスタン)
西パキスタンではアラビア文字を使用するウルドゥー語が中心、東パキスタンではヒンドゥー教と関係する文字を使用するベンガル語
南アジアの宗教
南アジアの宗教

領土問題・民族問題

カシミール問題

カシミール地方の帰属をめぐり、インド・パキスタン・中国が対立しています。
カシミール問題
カシミール問題

スリランカ民族対立

南部に居住する多数派のシンハラ人(宗教:仏教)と、北部に居住する少数派のタミル人(宗教:ヒンドゥー教)が政治をめぐって対立しています。
少数派のタミル人が、スリランカからの分離独立を主張し、一時は内戦に発展しました。
現在内戦は終結しましたが、民族対立は続いています。
スリランカの民族
スリランカの民族

農業

南アジアの農業
南アジアの農業

年降水量1,000mm以上の西ガーツ山脈の西側やガンジス川流域で米が生産されています。
米(もみ)の生産
国名万t(2019年)
中国20,961
インド17,765
インドネシア5,460
バングラデシュ5,459
ベトナム4,345
タイ2,836
米の輸出
国名万t(2019年)
インド973
タイ685
ベトナム545
パキスタン456
アメリカ305
中国272

綿花

インド亜大陸のデカン高原は、玄武岩が風化してできた土壌レグールが分布しています。
レグールは綿花栽培に適しており、高原では綿花が多く生産されています。
また、インドからパキスタンにまたがるパンジャブ地方でもよく生産されています。
綿花の生産
国名万t(2019年)
インド603
中国489
アメリカ434
ブラジル269
パキスタン156
トルコ81
ウズベキスタン77

小麦

小麦は、インド北西部とパンジャブ地方で生産されています。
小麦の生産
国名万t(2019年)
中国13,360
インド10,360
ロシア7,445
アメリカ5,226
フランス4,060
カナダ3,235
ウクライナ2,837

紅茶の消費国であるイギリスは、自国の植民地の高温多湿な土地で茶(茶葉)を生産させました。
イギリスからの独立後も茶の生産は続けられており、降水量の多いスリランカやインドのアッサム地方で生産されています。
茶の生産
国名千t(2019年)
中国2,777
インド1,390
ケニア459
スリランカ300
ベトナム269
トルコ261

ジュート

ジュートは、茎から麻という繊維を採れる植物です。
インドやバングラデシュのガンジス川沿いで生産されています。
ジュート
原料の植物または繊維自体を指す言葉
ジュート
ジュート
ジュートの生産
国名千t(2019年)
インド1,709
バングラデシュ1,600
中国30
ウズベキスタン15
ネパール11
南スーダン4

インド

基礎データ

インド
インド
人口(万人)(2020)138,000
面積(万㎢)(2019年)329
人口密度(人/k㎡)420
1あたりGNI(ドル)(2019年)2,120
公用語ヒンディー語(北部や中部で多く、インド=ヨーロッパ語族)、英語、ほか22の指定言語
主な宗教ヒンドゥー教
宗主国イギリス
首都デリー

宗教・生活

インドの主な宗教は、ヒンドゥー教です。
他にもイスラーム・キリスト教・シク教などの人々も一定数います。

菜食主義

古代インドでは、人は死後に別の生き物として生まれ変わると考えられました。
これを輪廻転生と言います。
何に生まれ変わるかは分からないため、食べた肉が、かつての知り合いということも起こりえます。
特別な場合を除き、肉食は避けられていました。
輪廻転生はヒンドゥー教にも引き継がれており、肉食を避ける菜食主義者の信者も多くいます(全員ではない)。

聖地

ヒンドゥー教の聖地は、ガンジス川に面する都市ヴァラナシです。
ガンジス川での沐浴
ガンジス川での沐浴

神聖な動物

ヒンドゥー教では、が神聖な動物とみなされるため、牛肉を食することが禁忌とされています。
厳密には、神聖視されるのはコブウシのみ(スイギュウの肉を食べることは問題ない)
コブウシ
コブウシ
牛は家畜としても重宝されています。
多くの牛が、荷物運搬の労働力や牛乳・乳製品の生産のために飼育されています。
牛糞は円盤状に成型して乾燥され、燃料として使われます。
特にコブウシの牛糞は、掃除や高級料理の調理に使用
牛糞燃料
牛糞燃料

カースト制

ヒンドゥー教では、人は生まれながらにして4つの身分(ヴァルナ)を細分化した社会集団(ジャーティ)のいずれかに所属することが決まっています。
カースト制は職業や結婚の面で制限を設けています。
現在、インドの憲法はカースト制による制限・差別を禁止していますが、未だに影響が根強く残っています
ダリット
カースト制にも属さない最下位の身分として差別の対象になってきた人々
カースト制
カースト制

人口

1960年代から、人口抑制を推進してきました。
しかし、あまり浸透せず、現在も人口増加率が高いままです。
人口ピラミッド(1960年のインド) 人口ピラミッド(2019年のインド)
人口ピラミッド(1960年と2019年のインド)
人口抑制をよびかける切手
人口抑制をよびかける切手
発展途上国のインドでは、Push型の都市化が生じています。
首都デリーなどでスラムが拡大しています。

農業

耕地率

インドは安定陸塊に属すため、国土の5割以上が耕地です。

代表的な生産物

インドは、米・綿花・ジュート・小麦・茶の生産で世界有数です。

生産の増大

1960年代、品種改良による高収量品種の導入や灌漑施設の整備で進み、農産物の生産が増加しました。
この生産増大を緑の革命と呼んでいます。
反面、大量の資金・肥料・農薬が不可欠になりました。

白い革命

「緑の革命」は、余剰生産物を家畜の飼料に回す余裕を生み出しました。
結果、牛乳や乳製品の飛躍的な増産に成功しました。
これを「白い革命」と呼んでいます。
牛の頭数
国名万頭(2019年)
ブラジル21,466
インド19,346
アメリカ9,480
中国6,339
エチオピア6,328
アルゼンチン5,446
牛乳の生産
国名万t(2019年)
アメリカ9,906
インド9,000
ブラジル3,589
ドイツ3,308
中国3,201
ロシア3,109
バターの生産
国名千t(2019年)
インド4,552
パキスタン1,128
アメリカ915
ニュージーランド505
ドイツ497
フランス354

ピンク革命

インドには食肉に関する禁忌があります。
国内のヒンドゥー教徒は牛肉を、イスラーム教徒は豚肉を口にしません。
このような状況下、鶏肉はインドの多くの人々が食すことができる肉です。
近年、鶏肉の生産・消費が増加し、「ピンク革命」と呼ばれています。
鶏肉の生産
国名万t(2019年)
アメリカ2,015
中国1,450
ブラジル1,352
ロシア461
インド419
インドネシア350
牛肉について
インドの人口の約80%がヒンドゥー教徒です。
残りの約20%は、牛を殺すこと・食べることが禁忌でなく、また、ヒンドゥー教で神聖視されるのはコブウシのみでスイギュウはその限りではありません。
インドでは多くのスイギュウが飼育され、役目を終えた後はヒンドゥー教徒以外の手で屠殺とさつされます。
インドの牛肉輸出は7割以上がスイギュウの肉で、輸出量は世界有数です。
ただし、統計によってスイギュウを含む場合と含まない場合があり、問題を解く際には必ず確認する必要があります(当HPではスイギュウを含まない統計データを掲載)。

工業・工業都市

インドの工業都市
インドの工業都市
Aデリー:自動車工業、ダイヤモンド加工業
Bムンバイ:綿工業、自動車工業
Cジャムシェドプル:鉄鋼業
*ダモダル川流域に原料指向型の立地
α:ダモダル炭田
β:シングブーム鉄山
Dコルカタ:ジュート工業
Eバンガロール:ICT産業
*別称:インドのシリコンバレー
*背景:
  • 低い賃金水準
  • 補助公用語の英語
  • アメリカとの時差(約12時間)
英語を活かし、コールセンターで働く人も多い
アメリカとインドの時差
アメリカとインドの時差
自動車の生産
国名千台(2019年)
中国25,751
アメリカ10,893
日本9,685
ドイツ4,947
インド4,524
メキシコ4,013
韓国3,951
ブラジル2,945
スペイン2,823
フランス2,175

貿易

インド 輸出品目(2019年、%)
機械類11.8
石油製品9.5
医薬品7.3
有機化合物5.8
ダイヤモンド5.5
インド 輸入品目(2019年、%)
機械類21.4
原油17.5
金(非貨幣用)6
有機化合物4.5
石炭4.5

パキスタン

基礎データ

パキスタン
パキスタン
人口(万人)(2020)22,089
面積(万㎢)(2019年)80
人口密度(人/k㎡)278
1あたりGNI(ドル)(2019年)1,410
公用語ウルドゥー語
主な宗教イスラーム
宗主国イギリス
首都イスラマバード

農業

砂漠気候(BW)のパキスタンですが、灌漑施設の整備で米の生産が盛んにおこなわれています。
米の生産は、主に西アジア向けの商業的農業です。

小麦・綿花

パンジャブ地方で小麦・綿花の生産が盛んです。
特に綿花に関しては、世界有数の生産国です。
綿花の生産
国名万t(2019年)
インド603
中国489
アメリカ434
ブラジル269
パキスタン156
トルコ81
ウズベキスタン77

スポーツ用品

パキスタンは、サッカーボールの生産国として有名です。
FIFA公式のサッカーボールの8割以上がパキスタンで生産されています。

貿易

パキスタン 輸出品目(2019年、%)
繊維品32
衣類27.8
9.4
果実1.9
1.9
パキスタン 輸入品目(2019年、%)
機械類18.9
石油製品9.2
原油5
パーム油4.6
液化天然ガス4.5

バングラデシュ

基礎データ

バングラデシュ
バングラデシュ
人口(万人)(2020)16,469
面積(万㎢)(2019年)15
人口密度(人/k㎡)1,113
1あたりGNI(ドル)(2019年)1,940
公用語ベンガル語
主な宗教イスラーム
宗主国イギリス
(パキスタンから分離)
首都ダッカ

国土と地球温暖化

バングラデシュは国土の大半が三角州(ガンジスデルタ)に位置します。
地球温暖化で海面が上昇すると、国土が水没する恐れがあります。
人口密度も高く、国民の多くが被害に遭うと想定されます。

農業

バングラデシュは、世界有数の米・ジュートの生産国です。

経済

バングラデシュは、アジアのなかで最貧国とされています。
バングラデシュでは、グラミン銀行が設立され、貧しい人々に対して無担保で少額の融資をおこなう金融サービスが世界で初めて取り組まれました。
グラミン銀行は、貯金・保険などのサービスも提供し、これらはマイクロファイナンスと総称されています。

貿易

バングラデシュ 輸出品目(2019年、%)
衣類84.2
繊維品5.1
履物2.2
冷凍エビ1.2
皮革製品1.1
バングラデシュ 輸入品目(2019年、%)
繊維品17.2
機械類15
石油製品9.1
植物性油脂5.7
鉄鋼4.7

スリランカ

基礎データ

スリランカ
スリランカ
人口(万人)(2020)2,141
面積(万㎢)(2019年)7
人口密度(人/k㎡)324
1あたりGNI(ドル)(2019年)4,020
公用語シンハラ語・タミル語
主な宗教仏教・ヒンドゥー教
宗主国イギリス
首都スリジャヤワルダナプラコッテ

農業

スリランカは、世界有数の茶の生産国です。
セイロンティー
スリランカ産の紅茶の総称
セイロンはスリランカの旧国名

貿易

スリランカ 輸出品目(2019年、%)
衣類42.5
12.4
ゴム製品5.3
繊維品4.3
機械類3.8
スリランカ 輸入品目(2019年、%)
機械類16.4
繊維品14.5
石油製品7.5
鉄鋼4
自動車3.6

モルディブ

基礎データ

モルディブ
モルディブ

国土と地球温暖化

モルディブは、1,000を超えるサンゴ礁島と26の環礁からなる国です。
モルディブの島の8割が海抜1m以下なので、地球温暖化による海面上昇は国のほとんどに影響を及ぼします。
モルディブ
モルディブ