西アジア・中央アジア地誌

表記について

地形

西アジア・中央アジアに該当する国・範囲は次の通りです。

西アジア・中央アジアの主な地形は次の図の通りです。
西アジア・中央アジアの地形
西アジア・中央アジアの地形

大地形

西アジア・中央アジアの大地形は、東西に新期造山帯が続き、南北に安定陸塊が広がります。
西アジア・中央アジアの大地形
西アジア・中央アジアの大地形

高原・山脈

パミール高原は、ウズベキスタ・タジギスタン・アフガニスタン・キルギス・中国にまたがって広がり、平均標高5000mの山々が連なります。
パミール高原からは、北東にかけてテンシャン山脈が走り、南東にかけてクンルン山脈・ヒマラヤ山脈が走ります。

外来河川

ティグリス川・ユーフラテス川は、湿潤地域に水源をもつ外来河川です。

塩湖

カスピ海・アラル海は塩湖です。
塩湖
塩分が1リットル中0.5グラム以上の湖
カスピ海・アラル海は陸地によって海と遮られるため地形的に「湖」だが、一説によれば、海のように広く、塩分濃度が高いため「海」と命名(資源をめぐる法的理由も存在)

自然環境

アラル海の縮小

近年、アラル海に注ぎ込まれるシルダリア川・アムダリア川から、綿花の栽培のために大量に取水しています。
アラル海に流入する水量が減少し、アラル海の面積が縮小しました。
20世紀最大の環境破壊と言われ、周辺では漁業の廃業や塩害が発生しています。
シルダリア川・アムダリア川の取水
シルダリア川・アムダリア川の取水
アラル海に放置された船
アラル海に放置された船
アラル海の縮小(左:1989年、右:2014年)
アラル海の縮小(左:1989年、右:2014年)

気候

西アジア・中央アジアの気候
西アジア・中央アジアの気候

乾燥気候と地中海性気候

西アジアの気候は、次のように把握できます。

各都市の雨温図

西アジアの都市
西アジアの都市
イスタンブールはトルコの都市です。
ヨーロッパとアジアの境界線であるボスポラス海峡に位置し、交易の中心地として栄えました。
夏に北上した中緯度高圧帯(亜熱帯高圧帯)の影響を受けて乾燥します。
イスタンブールの雨温図
イスタンブールの雨温図(Cs)
リヤドはサウジアラビアの首都です。
年間を通じて中緯度高圧帯(亜熱帯高圧帯)の影響を受けて乾燥します。
リヤドの雨温図
リヤドの雨温図(BW)
テヘランはイランの首都です。
中緯度高圧帯(亜熱帯高圧帯)の影響を受けて乾燥しますが、冬は東西に走る新期造山帯に沿って偏西風が吹きこみ、降水をもたらします。
また、隔海度が大きいため、気温の年較差がイスタンブールに比べて大きくなります。
テヘランの雨温図
テヘランの雨温図(BS)

民族・言語・宗教

西アジアの大部分の民族・言語・宗教は、次のようになります。
民族:アラブ人
言語:アラビア語(アフロ=アジア語族)
宗教:イスラームのスンニ派(スンナ派)

上記に該当しない国は下表の3国です。
国名 民族 言語 宗教
トルコ トルコ人 トルコ
(アルタイ語族)
イスラーム
イスラエル ユダヤ人 ヘブライ
(アフロ=アジア語族)
ユダヤ教
イラン ペルシア人 ペルシャ
(インド=ヨーロッパ語族)
イスラーム
シーア)派
語族が同じ国は下図の矢印のように連なっています。
西アジアの語族
西アジアの語族

民族問題

パレスチナ問題

歴史

古代
ユダヤ人の国家が消滅
1948年
かつて国家が存在した土地にイスラエル建国
ユダヤ人移入、住民のアラブ人(パレスチナ人)追放
1948~78年
中東戦争(第1~4次)
イスラエルを認めないアラブ諸国との戦争
いずれもイスラエルが勝利し、占領地が拡大
イスラエル
イスラエル

課題

現在、次の課題を抱えています。
パレスチナ パレスチナ自治区
パレスチナ自治区

3つの聖地

岩のドーム(イスラームの聖地)
岩のドーム(イスラームの聖地)
聖墳墓教会(キリスト教の聖地)
聖墳墓教会(キリスト教の聖地)
嘆きの壁(ユダヤ教の聖地)
嘆きの壁(ユダヤ教の聖地)

クルド人問題

クルド人は、独自の国家をもたず、トルコ・イラク・イランなど数ヵ国にまたがって居住する民族です。
主な宗教はイスラーム、主な言語はクルド語です。
少数派として差別を受けているため、自治・独立を要求しています。
クルド人の居住地域
クルド人の居住地域
クルド人の伝統的衣装
クルド人の伝統的衣装

農業

西アジア・中央アジアの農業
西アジア・中央アジアの農業
遊牧:羊・ヤギ・ラクダ
灌漑農業:小麦・綿花・ナツメヤシ
*河川やオアシス、センターピボット方式
ラクダ
ラクダ
ナツメヤシ
ナツメヤシ
ナツメヤシの生産
国名千t(2019年)
エジプト1,604
サウジアラビア1,540
イラン1,308
アルジェリア1,136
イラク639
パキスタン483

遊牧民

ベドウィンは、アラビア半島を中心に羊・ラクダの放牧や売買をおこなって生活する遊牧民です。
西アジアの石油開発はべドウィンの生活を一変させ、彼らのなかには伝統的な生活を捨てて都市に居住する者も多くいました。
ベドウィン
ベドウィン

灌漑農業を支えるもの

オアシス

オアシスは、乾燥地域で湧水が得られるところです。
人々はオアシス周辺に都市を築き、水辺は住民の憩いの場所になっています。
オアシス都市
オアシス都市
オアシスでの憩い
オアシスでの憩い

人工の地下水路

山麓の地下水を、乾燥させないために地下に通した人工の水路で集落まで導水します。
このような地下水路は、西アジアや北アフリカでも見られます
各地で名称が異なり、イランではカナートと呼んでいます。
北アフリカではフォガラと呼称
カナート
カナート

鉱工業

西アジア

西アジアは、世界の1/2の原油が埋蔵、世界の1/3の原油を生産しています。

歴史

第二次世界大戦以前
アメリカ・ヨーロッパ系の石油会社(国際石油資本)が油田開発
欧米が儲け、実際の産油国の利益が少ない状況
第二次世界大戦後
産油国が石油産業を国有化
1960年
OPEC石油輸出国機構)結成
OPECの語呂
「ああ、インドのさかながいくぜベイエリア」
あ(アルジェリア)あ(アラブ首長国連邦)さ(サウジアラビア)か(カタール)な(ナイジェリア)が(ガボン)い(イラン)く(クウェート)ぜ(赤道ギニア)ベ(ベネズエラ)イ(イラク)エ(エクアドル)リ(リビア)ア(アンゴラ)
1968年
OAPEC(アラブ石油輸出国機構)結成
1980年頃
開発に沸く西アジアの産油国に男性労働者が流入
男女比が不均衡(男性>女性)
1980年頃の人口の移動
1980年頃の人口の移動
サウジアラビアの人口ピラミッド(2019年)
サウジアラビアの人口ピラミッド(2019年)
アラブ首長国連邦の人口ピラミッド(2019年)
アラブ首長国連邦の人口ピラミッド(2019年)
クウェートの人口ピラミッド(2019年)
クウェートの人口ピラミッド(2019年)
近年
産油量が少ないカタールやバーレーン、アラブ首長国連邦のドバイで、脱石油の傾向あり
例えば、ドバイは流通や宿泊などのリゾートに力を注いでいます。
ドバイのヤシの木の形をした人工島
ドバイのヤシの木の形をした人工島

中央アジア

アゼルバイジャンのバクー油田など、カスピ海沿岸で原油や天然ガスを開発しています。
カスピ海とバクー油田
カスピ海とバクー油田

サウジアラビア

基礎データ

サウジアラビア
サウジアラビア
人口(万人)(2020)3,481
面積(万㎢)(2019年)221
人口密度(人/k㎡)16
1あたりGNI(ドル)(2019年)22,840
公用語アラビア語
主な宗教イスラーム(スン二派)
首都リヤド

聖地

サウジアラビアには、イスラームの聖地メッカがあり、世界から多くの信者が巡礼します
カーバ神殿
カーバ神殿

農業

サウジアラビアは、ナツメヤシの世界有数の生産国です。
ナツメヤシの生産
国名千t(2019年)
エジプト1,604
サウジアラビア1,540
イラン1,308
アルジェリア1,136
イラク639
パキスタン483
センターピボット方式による灌漑農業で、トマトなどの農作物を生産しています。
過剰な水の汲み上げで、地下水の枯渇が懸念されています。
センターピボット
センターピボット

原油

サウジアラビアは、世界有数の原油の生産・輸出国です。
また、サウジアラビアは日本の原油輸入先の第1位です。
原油の生産
国名万t(2019年)
アメリカ合衆国60,412.6
ロシア52,758.6
サウジアラビア48,886.5
イラク23,147.8
中国19,101.4
カナダ18,969
アラブ首長国連邦15,227.4
ブラジル14,147.3
クウェート13,574.2
イラン11,732.9
原油の輸出
国名万t(2019年)
サウジアラビア35,080.2
ロシア26,733.7
イラク19,494.1
カナダ16,494.6
アメリカ合衆国14,707.4
アラブ首長国連邦12,020.6
クウェート10,224.6
ナイジェリア9,409.4
カザフスタン7,000.9
アンゴラ6,250.9
日本の原油輸入先
国名万t(2020年)
サウジアラビア5,036
アラブ首長国連邦3,955
クウェート1,125
カタール1,037
ロシア518

貿易

サウジアラビア 輸出品目(2019年、%)
原油65.6
石油製品11.4
プラスチック類6.8
有機化合物3.7
機械類1.3
サウジアラビア 輸入品目(2019年、%)
機械類21.8
自動車10.4
鉄鋼4.1
船舶3.8
医薬品3.7

イスラエル

基礎データ

イスラエル
イスラエル
人口(万人)(2020)866
面積(万㎢)(2019年)2
人口密度(人/k㎡)394
1あたりGNI(ドル)(2019年)43,110
公用語ヘブライ語
主な宗教ユダヤ教
首都エルサレム

民族・宗教・言語

イスラエルは、ユダヤ人の民族独自の国家です。
ほとんどの人がユダヤ教を信仰し、ヘブライ語を用います。

産業

イスラエルの主要産業の一つに、ダイヤモンド産業があります。
原石を輸入し、研磨加工して輸出します。

貿易

イスラエル 輸出品目(2019年、%)
機械類27.1
ダイヤモンド10.9
精密機械9.5
有機化合物8.3
化学品5.1
イスラエル 輸入品目(2019年、%)
機械類26
自動車8.3
ダイヤモンド5.6
原油5.3
医薬品4.8

イラン

基礎データ

イラン
イラン
人口(万人)(2020)8,399
面積(万㎢)(2019年)163
人口密度(人/k㎡)52
1あたりGNI(ドル)(2019年)5,300
公用語ペルシャ語
主な宗教イスラーム(シーア派)
首都テヘラン

民族・宗教・言語

イランの人々は、主にペルシャ人でペルシャ語を使用し、イスラームのシーア派です。

街路形態

首都テヘランは、防御目的の迷路型の街路形態です。
イスラームの都市に多い

貿易

イラン 輸出品目(2019年、%)
原油52.6
石油製品9.3
プラスチック類4.8
鉄鋼4.3
有機化合物4.2
イラン 輸入品目(2019年、%)
機械類28.2
とうもろこし5.1
医薬品4.5
3.9
自動車3.7

トルコ

基礎データ

トルコ
トルコ
人口(万人)(2020)8,434
面積(万㎢)(2019年)78
人口密度(人/k㎡)108
1あたりGNI(ドル)(2019年)9,690
首都アンカラ

国土

国土は、ボスポラス海峡をはさみ、ヨーロッパとアジアにまたがります

地震

トルコ北部には東西に断層が走り、非常に活発な動きをすることで有名です。
過去に大規模な地震が発生し、大きな被害をもたらしました

都市

イスタンブール

イスタンブールはトルコの人口第1位の都市です(首都はアンカラ)。
かつてトルコの地にあったオスマン帝国の首都であり、ヨーロッパとアジアをつなぐ東西交通の要衝です。
都市名人口(万人)統計年次備考
イスタンブール1,5072018年
アンカラ5352020年首都
イズミル3752018年
トルコの都市人口
トルコの都市人口の比率(2019年)

東西格差

トルコは、国内最大の都市イスタンブールや首都アンカラなど西部が経済的に発展しています。
対して東部は発展に遅れ、東西の経済格差が生じています。

EU加盟の是非

近年、トルコはEUへの加盟を申請しています。
しかし、国土の多くがアジアに属すこと、人口の大半がイスラーム教徒であること、キプロス問題が未解決であることなどの理由から議論が続います。

キプロス問題

地中海のキプロスでは、北部と南部で住民に次のような違いがあります。
北部:少数派で、イスラーム教徒のトルコ系住民
南部:多数派で、東方正教徒のギリシア系住民
1974年、トルコ系住民がトルコの支援を受け、一方的に独立を宣言しました。
この宣言は国際的に承認されていませんが、現在次の2つの国が併存する状態です。
北部:北キプロス・トルコ共和国(トルコ系)
南部:キプロス共和国(ギリシア系)
このキプロス問題は、トルコのEU加盟が難航する理由の一つでもあります。

ドイツとの結びつき

トルコは、ドイツと貿易で強く結びつき、出稼ぎ労働者も多くいます。

貿易

トルコ 輸出品目(2019年、%)
機械類15.4
自動車12.6
衣類9
繊維品6.9
鉄鋼6
トルコ 輸入品目(2019年、%)
機械類19.5
金(非貨幣用)11.5
自動車6.9
プラスチック類4.8
鉄鋼4.4