人口動態
「多産多死」から「少産少死」へ
人口動態とは、一定期間内のある地域の人口変動(出生率・死亡率に左右される変動)を指します。
一般に出生率の低下は、死亡率の低下よりも時間がかかります。
従って、人口動態の型は経済・社会の発展で次の順に変化します。
- 人口漸増の「多産多死」
- 人口急増の「多産少死」
- 人口停滞の「少産少死」
人口動態の転換
多産多死型
日本を含め、かつて世界のほとんどの国が多産多死型(たくさん生まれてたくさん死ぬ)でした。
労働力のために子をたくさん産む一方、衛生や栄養状態が悪く乳児死亡率が高いのです。
この型では、人口が少しずつ増える人口漸増となります。
この型は、後発開発途上国に見られます。
後発開発途上国
LDCと略され、開発途上国よりもさらに開発が遅れている国のこと
多産少死型
多産多死の国が、経済的に発展していくと、衛生や栄養状態が改善され、乳児死亡率が低下します。
繰り返しになりますが、一般に出生率の低下は、死亡率の低下よりも時間がかかります。
出生率が高いままなので、人口が急激に増えます。
この型は、発展途上国に見られます。
少産少死型
多産少死型の国がさらに発展すると、高等教育機関への進学率が上がり、教育費も高くなります。
この時期には、夫婦が生活を維持するために、子供数を計画的に調節する家族計画も普及し始めます。
加えて、女性の社会進出も進み、晩婚化で出生率が低下します。
低い出生率と低い死亡率で、人口がほとんど増減しない人口停滞に至ります。
この型は、先進国に見られます。
人口減少-少産少死型の派生
日本の人口動態の転換をグラフにすると、次のようになります。
人口動態の転換(日本)
少産少子型の人口停滞がバランスを崩すと、日本のグラフのように人口減少に転じてしまいます。
この状況は、労働力不足、経済的な活力低下、高齢者を支える若年層の負担増加などの問題を起こします。
人口減少は、バランスを崩した先進国にだけ起こるわけではありません。
旧バルト三国(エストニア・リトアニア・ラトビア)など旧ソ連の東欧は、ソ連解体後もなかなか経済発展ができていません。
西欧への人口の流出が続き、また、社会不安から出生率も上がらず、人口減少が生じています。
少子化対策
フランス・スウェーデンの例
先進国のなかでも、フランスやスウェーデンなどの北欧は、従来から少子化対策をおこなってきました。
育児休暇などの出産奨励策・支援策も充実し、女性の社会進出もしやすい仕組み作りができています。
結果、これらの国の合計特殊出生率は、2.1を下回るものの、先進国のなかで高い数値にあります。
合計特殊出生率(フランス)
合計特殊出生率(スウェーデン)
日本・ドイツ・イタリアの例
日本・ドイツ・イタリアは、フランスやスウェーデンなどの北欧と比べて、少子化対策に遅れ、合計特殊出生率が低い数値にあります。
ただし、低迷気味だったドイツがこの数年ベビーブームを迎え、数値を伸ばしています。
合計特殊出生率(日本)
合計特殊出生率(ドイツ)
労働力の不足
少子化で困るのは、労働力不足です。
これを補う策が、外国人労働力の導入です。
ドイツでは、第二次世界大戦後の経済復興のため、多数の外国人労働力を受け入れました。
この動きは1970年代まで続き、その間にトルコから特に多くの移民があり、ガストアルバイターと呼ばれました。
やがてドイツの発展がピーク期をすぎて停滞してくると、移民に対する排斥運動が起きてしまいました。
人口構成
人口ピラミッド
性別・年齢別の人口構成を表現したものが、人口ピラミッドです。
人口ピラミッドのイメージ
多産多死・多産少死
衛生状態が悪い多産多死(高い出生率、高い死亡率)の国・地域の人口ピラミッドは、富士山型です。
人口ピラミッド「富士山型」のモデル
富士山
具体的には、エチオピアなどの後発開発途上国の人口構造がこの型です。
エチオピアの人口ピラミッド(2017年)
やや衛生状態が改善した多産少死(高い出生率、低い死亡率)の国・地域の人口ピラミッドも、富士山型です。
ただし、多産多死とはピラミッドの「裾野の部分」が異なります。
開発途上国の人口構造が該当するので、実際にメキシコを例にとって確認しましょう。
メキシコの人口ピラミッド(2017年)
少産少死
少産少死(低い出生率、低い死亡率)の国・地域の人口ピラミッドは、釣鐘
(ベル)型です。
人口が増減しない停滞状態で、ピラミッド上部に位置する高齢者の割合が増え、高齢化を表します。
人口ピラミッド「釣鐘型」のモデル
釣鐘
家族計画が普及した国がこの型になります。
ブラジルの人口ピラミッド(2019年)
また、フィンランドを例にとって、釣鐘型のピラミッドを見てみましょう。
先進国の中でも、福祉や育児制度が充実し、少子化対策できている国がこの型です。
フィンランドの人口ピラミッド(2017年)
人口減少-少産少死型の派生
少産少死でかつ、少子化が年々進行している国・地域の人口ピラミッドは、つぼ(紡錘)型です。
人口ピラミッド「つぼ型」のモデル
この型は、先進国の中でも、少子化対策が遅れて出生率が極端に低下する(あわせて高齢化も進行する)国が該当します。
例えば、日本の人口ピラミッドがつぼ型です。
日本の人口ピラミッド(2019年)
日本と似た状況にあるドイツ・イタリアの人口ピラミッドもつぼ型です。
左:ドイツの人口ピラミッド(2019年)、右:イタリアの人口ピラミッド(2019年)
アメリカの人口ピラミッド
アメリカの人口ピラミッドは釣鐘型です。
アメリカ合衆国の人口ピラミッド(2019年)
アメリカにはヒスパニック系の移民が多く流入します。
ヒスパニック系にはカトリックの人々が多く、宗教上避妊がよしとされません。
また若い移民が多いことも関係して出生率が高くなります。
ロシアの人口ピラミッド
ロシアの人口ピラミッドは特殊な型になります。
ロシアの人口ピラミッド(2019年)
戦争・飢饉・ソ連崩壊など社会情勢の不安定さが年齢ごとの凹凸に表れています。
その他の人口ピラミッド
市町村など狭い地域に限定すると、特殊な人口ピラミッドになります。
都市へ生産年齢人口が流出した農村部に見られます。
人口ピラミッド「ひょうたん型」のモデル
ひょうたん
生産年齢人口が農村部から流入した都市部で見られます。
人口ピラミッド「星型」のモデル
人口問題
少子化
合計特殊出生率は、一人の女性が生涯何人の子供を産むのかを推計したものです。
この値が2.1(厳密には2.07~2.08)を超えれば人口増加と考えますが、先進国のほとんどが2.1を下回ります。
先進国で高い国
フランスやスウェーデン:
早くに育児環境の整備に取り組んで出生率を向上
アメリカ:
若い移民が流入するため出生率がある程度高い
先進国で特に低い国
日本・ドイツ・イタリア:
晩婚化・少子化が進行して出生率が低く、環境の整備が不十分
人口抑制
人口爆発が生じている発展途上国では、経済発展が人口増加に追いつかず、食料不足と貧困の問題が生じています。
子どもを労働力の頭数に入れたり、乳児死亡率が高いのでたくさんもうけようとしたりするため、人口抑制がなかなかできません。
中国の人口抑制
1970年代、中国で人口の急増を抑制しようとする動きが起こりました。
人口抑制策として、夫婦の子どもを原則一人までとする一人っ子政策が採用されました。
政策の結果、出生率は低くなり、人口増加率が徐々に減りました。
しかし、政策は戸籍のない子どもや男女比の不均衡などの新たな問題を生んだため、2015年に廃止されました。
左:中国の人口ピラミッド(1970年)、右:中国の人口ピラミッド(2019年)