民族問題・領土問題

表記について

様々な争い

問題の移り変わり、今日の争い

1900年代前半、世界各国は植民地を拡大しようと争い、第一次世界大戦と第二次世界大戦を経験しました。
第二次世界大戦後の世界は、ソ連・中国を中心とする社会主義国と、アメリカ合衆国・西ヨーロッパ諸国などの資本主義国に分かれ、どのような国家・社会を理想とするかで争いました。
冷戦と呼ばれるこの対立は、社会主義国側の政治・経済に行き詰まりが生じ、1990年代に終わりを告げました。
社会主義・資本主義という二元的対立がくずれると、世界中で地域的な紛争が頻発するようになりました。
今日の争いは、かつての国同士が争う形から、国内の民族間での紛争や、他国の同じ宗教の人々から武力支援をうけたものなど、複雑で様々な形をとるようになりました。

言語・宗教との関わり

かつて国は同一の民族・言語・宗教の人々で構成されると考えられました。
現実にはこの考えは幻想であり、複数の民族・言語・宗教が存在しています。
そのため、民族・言語・宗教の差異から様々な対立が生じます。
例えば、言語は教育や就業など生活の中で損得の機会と深く関わります。
同じ国の中でどの言語を公用語・国語とするかをめぐって対立が生じやすいのです。
対策として、複数の言語を公用語にするなどしています。
また宗教の場合には、宗教同士の異なる教えで対立が生じやすく、権利が制約されたり迫害されたりすると、信徒が団結して大事に発展します。
宗教の違いに民族の違いが重なるとさらに複雑で、独立・分離を求めて争いが激しくなります。

民族問題の主な原因

植民地化された際に民族が分断され、所属国のなかでマイノリティ(少数派)になることがあります。
このような状況下で不利益を被ると、分離独立を求めて争いに発展します。
民族問題
民族問題の原因

領土をめぐる問題

国の領土・領海・領空は不可侵の領域です。
西アジア・アフリカの国境線は、植民地にしていたヨーロッパ諸国が決めたため、独立後にもめる原因となりました。
また、大陸棚の開発などで、石油資源や水産資源が発見されると、その利権をめぐって争うこともあります。
言語・宗教の対立は、その実国境線や領有をめぐる争いとも絡んでいることがあり、問題を複雑化させています。

民族問題

南アジア

スリランカ民族対立

南部に住む多数派で仏教徒のシンハラ人と、北部に住む少数派でヒンドゥー教徒のタミル人が対立していました。
政府が多数派のシンハラ人を優遇したため、タミル人が反発し、内戦に発展しました(2009年、終結)。

西アジア

イラン=イラク戦争

1980~1988年、イランとイラクの国境であるシャトルアラブ川をめぐる紛争が、イラン=イラク戦争に発展しました。
この争いには、イスラームのスンニ派が政権を握るイラクとシーア派が政権を握るイランの対立という宗教的な面もあります。

クルド人の難民問題

トルコ東部やその隣国の山岳地域では、クルド人と呼ばれる民族が居住しています。
クルド人は、世界最大の「独立した祖国をもたない民族」と言われています。
第一次世界大戦後の領土分割の際に分散させられて以来、分離・独立運動を続けてきました。
イラン=イラク戦争、湾岸戦争にも巻き込まれ、弾圧を受けて多数の難民も生じています
トルコはEU加盟の交渉のためにクルド人を含む少数民族の擁護を推進
クルディスタン
クルディスタン(伝統的にクルド人が居住する地域)

パレスチナ問題

イスラエル建国に伴い、世界中に離散していたユダヤ人が移住してくる一方、パレスチナ人が居住地を失って難民となりました。

コーカサス三国の民族問題

コーカサス三国と総称されるグルジア(ジョージア)・アルメニア・アゼルバイジャンでは、民族・宗教・ロシアとの政治など様々な面で対立が生じています。
「三国」と聞くと協調の意味合いを感じさせますが、コーカサス三国には当てはまりません。

ロシア

チェチェン問題
ロシア国内のチェチェンではイスラーム教徒が多く、ロシアからの独立を要求しています。
資源が分布するため、ロシアは要求を認めていません。

アフリカ

ナイジェリア民族問題

ナイジェリアは、ハウサフラニ族・イボ族・ヨルバ族の三大民族で構成される多民族国家です(少数民族も含めると250以上)。
このような状況下、油田地帯に居住するイボ民族が独立を宣言してビアフラ戦争に発展しました(現在終結)。
ナイジェリアでは、ビアフラ戦争の再発を防ぐため、民族融和が目指されました。
多くの民族の不満を緩和するため、居住地域に合わせて国内を多くの州に細分化し、自治権を与えました
加えて、ヨルバ族の中心地が首都となっていた状況を改め、三大民族の居住地域の境界付近であるアブジャを新たな首都と定めました。
ナイジェリア
ナイジェリア

ルワンダ内戦

ベルギーの植民地であったルワンダでは、支配の手段としてフツ人・ツチ人の民族対立が扇動されました。
1973年の独立後、多数派のフツ人が政権を握りましたが、フツ人の大統領が暗殺されたことで、ツチ人が大量に虐殺されました。
民族対立は1990~94年に激化し、内戦へと発展しました。
内戦が勃発し、周辺諸国へ逃れる難民も生じました
ルワンダ
ルワンダ

ヨーロッパ

北アイルランド紛争

北アイルランドでは、多数派のプロテスタント住民が政治的権力を独占しています。
少数派で貧しいカトリック住民がこの状況に抵抗しています。

キプロス問題

地中海のキプロスでは、少数派のイスラーム教徒のトルコ系住民と、多数派で東方正教徒のギリシャ系住民が対立しています。
1974念、トルコ系住民がトルコの支援を受けて一方的に独立を宣言しましたが、国際的には承認されていません。

バスク独立問題

スペインとフランスの国境になるピレネー山脈には、固有の言語・文化をもつバスク人が居住しています。
1979年、スペインはバスク人に自治権を認めましたが、完全独立を要求する活動が今日も続いています。
バスク地方
バスク地方

カタルーニャ独立運動

独自文化をもつスペイン北東部のカタルーニャ自治州が、近年独立を要求しています。

ベルギー言語紛争

南部のフランス系ワロン人(フランス語)と北部のオランダ系フラマン人(オランダ語)が、公用語をめぐって対立しています。
豊かなオランダ語圏と貧しいフランス語圏といおう経済的対立でもあります。
ベルギーは、対立緩和のために、オランダ語・フランス語・ドイツ語を公用語にしています。

旧ユーゴスラビア

旧ユーゴスラビアは、クロアチア・ボスニア=ヘルツェゴビナ・セルビアなどで構成されていました。
西部地域(イタリアに隣接)のクロアチアにはカトリック教徒が、東部地域のセルビアなどには東方正教徒が多くいます。
コソボ自治州には、イスラーム教徒のアルバニア人が住み、自治権拡大やセルビアからの独立を求めています。

北アメリカ

ケベック州

カナダではイギリス系住民が多数派、フランス系住民が少数派です。
東部のケベック州ではフランス系が多数派になるため、イギリス系主導の政府に不満をもち、独立運動を展開しています。
カナダは、対立緩和のために、フランス語・英語を公用語にし、2言語教育に取り組んでいます。

領土問題

日本

他国に実効支配されている場所

日本には、次の2つの領土問題があります。

領土問題ではないが懸念されている場所

尖閣諸島
中国が海底資源を狙い、突然領有を主張
日本政府は「解決しなければならない問題はそもそも存在しない」という立場

南シナ海

南沙諸島
南シナ海の島嶼で、原油埋蔵が確認されたため、周辺の中国・ベトナム・フィリピン・マレーシアなどが領有を主張

南アジア

カシミール地方
インド北西部からパキスタン北東部の地域
イギリスからの独立時にヒンドゥー教徒が多数のインドに帰属したが、カシミール地方はイスラーム教徒が多数派のため、パキスタンへの帰属を求めて運動
中国が一部を実効支配したので、現在は3国で分割統治