工業の発達
工業とは
工業とは、原材料(農林水産物や鉱山資源など)を加工し、有用な製品をつくる産業です。
加工する過程で、技術・労働力・動力などが必要になります。
発達順
どの国でも次の①~③の順に工業が発展します。
工業とコスト
人が原材料を加工するのは、付加価値によって利益を生むためです。
そして、利益を多くする単純な方法は、コストを抑えることです。
原材料費以外に、次のことにコストがかかります。
練習問題
例えば、重い原料があり、その原料は加工後にすごく軽くなるとしましょう。
産地と加工品の消費地が下図のような配置であれば、A~Dのどこを加工場所にするべきでしょうか。
答えは、
A/B/C/Dです。
輸送費は重量が大きいものほど高くなるので、なるべく軽くして運ぶ方がコストを抑えられます。
工業の立地
立地の種類
「輸送費」「人件費」をどう抑えて利益を出すかで、工業立地、つまり工場をどこに置くかが決定します。
おおまかに次の表のようになります。
工業の立地
立地型 |
工業 |
理由 |
原料指向型 |
金属・セメント・パルプ |
加工後に原料の重量が大幅に減るため、産地付近でに立地 |
電力指向型 |
アルミニウム |
電気を大量消費するため、電気代が安い地域に立地 |
市場指向型 |
ビール・清涼飲料・印刷・出版 |
原料がどこでも入手可能なため、消費地近くに立地 |
労働力指向型 |
繊維・組立 |
人手が多く必要なため、人件費が安い地域に立地 |
臨海指向型 |
鉄鋼・石油化学 |
海外からの輸入原料に依存するため、荷揚げ地(港)に立地
|
臨空港指向型 |
エレクトロニクス |
小型・軽量で高付加価値な製品のため、飛行機での輸送コストを度外視でき、空港や空港に続く高速道路付近に立地 |
集積指向型 |
自動車 |
部品工場が集まって立地することで、設備の共同利用や輸送コストの削減が可能 |
原料指向型
立地の理由
輸送費は、重い荷物ほどかかります。
もし原材料が加工される過程で軽くなるもの(重量減損原料)なら、可能な限り産地近くで加工すべきです。
こうした立地が、原料指向型です。
原料指向型の代表的な業種は、金属工業のほかに、石灰石が得られる場所でセメント工業、水・木材が得られる場所で製紙業やパルプ業が立地します。
セメント工業
セメントの主要原料は、石灰石です。
石灰石は不純物を含むため、セメントになると軽くなります。
産地近くで加工し、輸送した方がコストがかかりません。
日本の石灰石の産地
日本のセメント工場
セメント
*この粉末に水などを混ぜたものがコンクリート
ミキサー車
*コンクリートを運ぶ車
鉄鋼業
鉄鋼の原料の鉄鉱石と燃料の石炭は、鉄鋼よりも重いです。
例えば、昔は鉄鉱石2t、石炭4tから1tの鉄鋼を生産していました。
従って、セメント工業同様に、原料の産地(鉄山や炭田)の近くで加工します。
しかし、近年の先進国の鉄鋼業は、国内原料の枯渇や安価な輸入原料への依存から、後述する臨海指向型へ移行しています。
銑鉄
パルプ業・製紙業
紙は、木材からパルプという繊維を取りだして作ります。
抽出後は重量が小さくなるため、原料指向型の立地です。
日本では、豊富な山林を周辺にもつ四国や苫小牧(北海道)に、工場が立地します。
パルプ化と製紙
原料指向型以外のパルプ業・製紙業
パルプ業・製紙業は次の条件を優先することがあり、必ずしも原料指向型ではありません。
- 大量の処理用水が必要
用水の近くに立地(例:富士)
- 輸入木材を利用
木材の輸入港に立地(例:新潟)
- 古紙を原料として利用
古紙の供給源である大都市に立地(例:東京)
R100
*古紙パルプ配合率100%の用紙のマーク
日本のパルプ・製紙工場
臨海指向型
立地の理由
輸入原料を使用する場合は、輸入に便利な港の近く(臨海地域)に工場を立地させます。
日本は資源のほとんどを海外に依存しているので、鉄鋼業や石油化学工業が原料/臨海指向型です。
鉄鋼業
かつて鉄鋼業の多くは、鉄山と炭田が付近に位置する原料指向型の立地でした。
近年の先進国では、国内の資源枯渇などを理由に原料指向型が減り、輸入した鉄鉱石・石炭を臨海で加工する臨海指向型の立地が多くなりました。
発展途上国の鉄鋼業は原料指向型
鉄鋼業の立地移動
日本の製鉄所
石油化学工業
鉄鋼業と同様に、臨海指向型の立地です。
石油化学コンビナート
日本の石油化学コンビナート
臨空港指向型
立地の理由
軽量で小さく、高付加価値である電子部品は、輸送費が高い空輸で素早く組立工場まで運んだ方が利益を出します。
このように高い輸送費を度外視できる工業は、臨空港指向型(空港付近や空港に続く高速道路付近の立地)になります。
電子回路
日本では九州や東北地方が工場の誘致に力を入れており、それぞれシリコンアイランド、シリコンロードという別名がつけられています。
日本の半導体工場
集積指向型
立地の理由
自動車工業は、多数の部品工場で作られたものを組立工場で製品化します。
工場が集まって立地することで、設備の共同利用や輸送コストの削減ができます。
このような工場の立地を集積指向型と呼びます。
自動車工場の集積
日本の自動車工業は、各メーカーの創業地と強く結びついています。
自動車組立工場
市場指向型
立地の理由
原材料がどこでも得られるもの(普遍原料)であれば、消費地に近い場所で加工した方が輸送費を抑えられます。
また、情報などは人が多く住む消費地ほど大量に速く入手できます。
これらの理由で大都市近郊に立地するのが、市場指向型です。
ビール・清涼飲料
ビール・清涼飲料の原材料は、水が最大の重量を占めます。
こだわりの水でなければ、水は普遍原料と言えます。
そして、缶・ビンに詰めれば重量が増えるので、消費地近くで製造する方が輸送費を抑えられます。
日本では東京・札幌・福岡など大都市近郊に工場が立地します。
ビール製造
ただし、飲料全般が市場指向型ではないので、注意が必要です。
例えば、ワインは原材料のブドウが腐りやすく、水を使わないため原料指向型になり、また、日本酒はその土地特有の水と結びつきが強く、用水指向型になります。
印刷業・出版業
情報は量・速さが勝負です。
また、これらを印刷して書籍化すると重量がかなり増えます。
印刷業・出版業は、情報が得やすく輸送費が抑えられる大都市近郊に展開します。
アパレル業
流行は都市部の人々の方が敏感です。
アパレル(服飾)製品の企画やデザインをおこなう事業所は、消費市場の情報を求めて大都市に立地する傾向があります。
労働力指向型
立地の理由
手作業や比較的やさしい家電の組み立て(ローテク産業)では、大量の労働力が必要になります。
人件費を安く抑えれば、それだけ利益が出せます。
安価な人件費を求めた立地が、労働力指向型で、繊維工業や電気機械工業に見られます。
近年、企業の工場が海外へ移転するのは、労働力指向型だからです。
電力指向型
立地の理由
アルミニウムはボーキサイトという鉱石から取り出されます。
取り出す過程で電気分解という工程があり、大量の電気エネルギーが必要になります。
安価に電力を供給できる場所を求めた立地が、電力指向型です。
アルミニウム製錬では、特に水力発電が頼られました。
日本のアルミニウム製錬
かつて日本は世界でも有数のアルミニウム精錬国でした。
しかし、電力費の高騰で徐々に衰退し、水力発電に頼っていた静岡県蒲原工場も2014年3月に閉業し、現在の日本でアルミニウムの生産はなくなりました。
リサイクルによる再生あり
現在、日本で使われるアルミニウムはオーストラリアからの輸入に最も頼っています。