水産業
好漁場の条件
漁場が好漁場(たくさん獲れる場所)になるためには、いくつかの条件が必要です。
自然条件
好漁場の自然条件は、豊富な栄養分と日光があることです。
「栄養分→植物性プランクトン→動物性プランクトン→魚類」という食物連鎖を考えれば、植物性プランクトンが必要とする栄養分と光合成のための太陽光が重要だとよく分かります。
海中の栄養分は重いため、海底に沈んでいます。
栄養分が、海底から上昇する海水の流れ湧昇流によって、太陽光の届く浅い水域まで運ばれれば、好漁場が成立します。
湧昇流は、次の場所で生じます。
- 大陸棚
大陸の周りを縁取り、水深200m程度までの浅い海域
浅い海域までの斜面を伝って海水が上昇しやすく(湧昇流の発生)、加えて大陸棚上では太陽光が海底までよく到達
- バンク(浅堆)
大陸棚上で特に水深の浅い部分
大陸棚同様の理由で湧昇流が発生し、太陽光も海底までよく到達
- 潮境(潮目)
暖流と寒流が出会う海域に生じるもの
冷たい寒流が暖かい暖流に出会うと下に潜り込み、渦による海底からの湧昇流が発生
大陸棚とバンク
潮境(潮目)
社会条件
好漁場は、自然条件だけでは成立しません。
消費地の存在や食文化などの社会条件も影響しています。
世界の主要漁場
北西太平洋(ユーラシア大陸東岸地域)
北西太平洋
成立条件
特色
南東太平洋(ペルー沖)
南東太平洋
成立条件
ペルー海流と湧昇流
特色
- アンチョビー(カタクチイワシ科)をフィッシュミール(魚粉)に加工して、飼料や肥料として輸出
アンチョビー(カタクチイワシ)
北東大西洋(北海周辺)
北東大西洋
成立条件
特色
- タラ・ニシンを中心とする、漁場開発の歴史が古い好漁場
- 近年漁獲量が停滞
- トロール漁による機械化された大規模経営
タラ
ニシン
トロール漁
北西大西洋(ニューファンドランド島近海)
北西大西洋
成立条件
- 大陸棚上のバンクの発達
グランドバンク・ジョージバンク
- 潮境(潮目)の発達
暖流のメキシコ湾流と寒流のラブラドル海流の合流
特色
中東大西洋
中東大西洋
成立条件
特色
世界の水産業
世界の水産業の動向
世界各国で水産資源の需要が高まるなか、近年、漁獲量に占める養殖業の割合が増加しました。
かつて日本の漁業・養殖業生産量は世界一でした。
現在漁船漁業では中国が1位です。
中国
中国の漁獲量は、1990年代以降に著しい伸びを示しました。
今では世界最大の漁獲高になっています。
この伸びの背景には、次の3つが挙げられます。
- 日本などへの輸出が増加
- 中国の経済発展によって食生活の水準が向上し、国内需要が増加
- 湖沼や池などの内水面で営む、コイ科の魚種を中心とした養殖業を政府が援助し、多種の淡水魚を生産
余談になりますが、中国の漁獲統計の数値は過大に見積もられている疑いがあります。
1990年代と2000年代の接合がいったんの減少と増加という不思議なもので、FAOとの見直しで修正作業が入ったものと思われます。
中国のフナ(コイ科)の養殖
ペルー
ペルーの漁獲量は、大きく増減しています。
変動幅が大きいのは、漁獲量の大部分を占めるアンチョビー(カタクチイワシ科)の豊漁不漁によって起こされています。
1種の魚類に依存するため、漁獲量に大きく影響します。
このような依存は、1960年代から始まりました。
アンチョビーの漁獲量は、えさとなるプランクトンの量を左右する湧昇流にかかっています。
1970~1980年代は、湧昇流の発生を弱めるエルニーニョ現象に見舞われ、アンチョビーの不漁となりました。
平常時のペルー沖
エルニーニョ現象
ラニーニャ現象
日本
日本の漁獲高は、1980年代まで上位を占めましたが、近年減少傾向にあります。
これは日本人が魚類を食べなくなったわけではありません。
むしろ、日本の水産物の消費量は、1960年代より増加しています。
日本の漁獲高の減少は、海面漁業(遠洋・沖合・沿岸)の衰退や輸入の増加に理由があります。
漁業の衰退
日本の水産業は、養殖を除いて全て漁獲量が減少しています。
1970年代
遠洋漁業は、1973年を最後に激減しています。
これは、次の2つを背景に操業可能な漁場が縮小したからです。
- 第四次中東戦争に端を発した石油危機による燃料費の高騰
- 世界各国による排他的経済水域(200海里経済水域)の設定
日本の排他的経済水域
1980年代後半
遠洋漁業の減少後、沖合漁業がその減少分を補うように急増しました。
しかし、次の2つを背景にこの漁業も減少しました。
- 乱獲や海洋環境の変化によるマイワシなどの不漁
- 国民の嗜好が高級魚に変化
マイワシ
近年
沿岸漁業は、沿岸部の埋立ての増加で停滞状態にあります。
輸入量の増加
漁業の衰退の一方で、日本の水産物の消費量は増加しています。
現在は水産物の半数以上を輸入に頼り、アメリカ合衆国と並ぶ世界的な輸入国になっています。