図法の必要性
球体から平面へ
球体である地球を平面である地図として表す時、面積・距離・方位・角度・形などの要素で「ゆがみ」が生じます。
ある要素の「ゆがみ」を許し、用途に応じて必要になる特定の要素を正しく表現するため、様々な地図の描き方(図法)が考えられてきました。
ゆがみのイメージ
ミカンの皮
「ゆがみ」は、ミカンの皮を例えに使うとわかりやすくなります。
球体であったミカンの皮を剥くと、平面になります。
しかし、その形は四方八方が断裂していて、仮にこれが地図であれば、非常に見にくく使いにくいものです。
ミカンの皮
主な図法
図法の3分類
大きく分けて、3つの図法があります。
正積図法
低緯度を正確に-サンソン図法
サンソン図法
- 長所:低緯度の大陸の形が比較的正確
- 短所:高緯度の大陸の形にゆがみ発生
高緯度を正確に-モルワイデ図法
モルワイデ図法
- 長所:中・高緯度(特に中緯度)の大陸の形が比較的正確
- 短所:低緯度の大陸の形にゆがみ発生
いいとこ取り-グード図法
グード(ホモロサイン)図法
緯度40°44′を境として、低緯度側をサンソン図法で、高緯度側をモルワイデ図法で表現した地図です。
両者のいいとこ取りをしたがために、海洋に断裂を入れて大陸の形を整える必要が生じました。
- 長所:大陸のゆがみが全体的に少ないため、分布を示すことに最適
- 短所:断裂があるため、人や物の動きを矢印で表現することに不適
地方図に最適-ボンヌ図法
ボンヌ図法
- 長所:地図中で唯一の直線の中央経線(図中の赤線)、標準緯線(図中の黄線)付近が比較的正確で、中緯度あたりの地方図に最適
- 短所:周辺部のゆがみが大きく、広範囲の世界地図に不適
正角図法
航海用の図法-メルカトル図法
1592年、メルカトルは、経線が平行直線に、緯線が経線に直交する平行直線になるように地図を作製しました(下図参考)。
このような図法で作製された地図は、下図のようになります。
メルカトル図法
この図法の地図は、航海に利用されてきました。
地点Aから地点Bに向かう時、北に対して取る船の舵の角度(舵角)を、この地図上で2点間を結んだ直線と経線のなす角度にすれば、いずれ目的地である地点Bに到達できるからです。
遠回りになるが確実に目的地に到達できるこの直線を等角航路と言います。
等角航路
大航海時代以降重宝され、私たちにとっても比較的馴染みのあるメルカトル図法ですが、高緯度の大陸の面積を表現することを不得手としています。
例えば、下図に示したアルジェリア(赤)とグリーンランド(青)の面積はほぼ等しいのですが、メルカトル図法ではグリーンランドが圧倒的に大きく表現されています。
メルカトル図法(アルジェリア・グリーンランド)
アルジェリアとグリーンランドの比較からわかるように、メルカトル図法では赤道から離れるほど、距離・面積が大きくなります。
緯度60度では、赤道上と比べて距離が2倍、面積が4倍で表現されます。
メルカトル図法
メルカトル図法についてまとめると、次のようになります。
- 長所:等角航路を地図上で表現でき、航海用(海図)に利用可
- 短所:高緯度での面積の拡大がひどく、また、最短距離が曲線
正方位図法
方位と距離を正しく-正距方位図法
正距方位図法(中心:北極点)
この図法では、図の中心から別の地点までの方位と距離を正しく表現します。
また、図の中心と別の地点を結ぶ直線(下図の赤線)は、2点間の最短距離を表します。
この最短距離は、大圏航路と言います。
大圏航路(中心:北極点)
正距方位図法の地図の外周円(下図の赤線)は、図の中心の対蹠点(反対側)を表します。
下図のように北極点中心の図ならば、外周円は南極点です。
地球1周は40000㎞なので、図の中心から外周までの半径(下図の黄線)は20000㎞になります。
対蹠点(中心:北極点)
東京を中心とした正距方位図法
日本の東京を中心とした正距方位図法(下図)を参考に、特徴をまとめてみましょう。
図の中心からの方位が正しいので、東京から見るとサンティアゴは東、サンパウロは北北東にあります。
また、図の中心からの距離が正しいので、サンパウロ・サンフランシスコ・サンティアゴのうち、東京から最も距離が短いのはサンフランシスコです。
そして、図の中心と別の地点を結ぶ線(下図の緑線)は、その間の最短距離大圏航路を示します。
正距方位図法(中心:東京)
大圏航路をメルカトル図法上で表すと、曲線になります。
下図で等角航路と大圏航路の違いを確認してみましょう。
正距方位図法上の大圏航路(緑線)
メルカトル図法上の等角航路(黄線)・大圏航路(緑線)
正距方位図法についてまとめると、次のようになります。
- 長所:最短距離、つまり大圏航路を図の中心と別の地点を結ぶ直線で表現でき、航空図に利用可
- 短所:周辺部のゆがみ大
北半球を中心とした正距方位図法
下図は北極圏のグリーンランド北西部にある米軍基地チューレを中心とした正距方位図法の地図です。
チューレから見て、アフリカ大陸は東にあり、オーストラリア大陸は北西にあります。
チューレ
アメリカの空軍基地で、北極点から約1,500㎞ほどの地点に位置
正距方位図法(中心:チューレ)
*南緯60度より南は省略
南半球を中心とした正距方位図法
南半球の地点を中心にした正距方位図法では、方位の判断に注意が必要です。
下図は南極の昭和基地を中心とした正距方位図法の地図です。
昭和基地から見て、南アメリカ大陸は西にあり、オーストラリア大陸は東にあります。
正距方位図法(中心:昭和基地)
*北緯60度より北は省略
正距方位図法による有名な図
補足になりますが、国際連合の旗は北極点を中心に南緯60°までを正距方位図法で表した図です。
冷戦の時代、メルカトル図法で地図を表すとソ連の領土が大きく表現されすぎるため、この図法を採用したと言われています。
国際連合の旗