概要
11世紀末~12世紀の院政期は、時代の転換期といえます。軍事貴族は西へ東へと戦に赴き、各地の有力農民を従えて勢力を伸ばしました。この動きに合わせ、文化もダイナミックに動きました。都の文化が地方へ普及して、例えば奥州藤原氏のような地方豪族が、新たな文化の担い手として参加し、華麗な阿弥陀堂を建立しました。
地方と庶民の文化
地方へ普及する文化
国風文化以降、末法思想と結びついた浄土教が次第に広がりました。
12世紀には、聖や上人の布教で全国に広がりました。
奥州藤原氏などの地方豪族も「阿弥陀堂」を建立しました。
阿弥陀堂
中尊寺金色堂(陸奥国、現岩手県平泉)
白水阿弥陀堂(陸奥国、現福島県いわき)
富貴寺大堂(豊後国、現大分県豊後)
各地の阿弥陀堂
受容される庶民の文化
当時、庶民のあいだで田楽・猿楽という芸能や今様という歌謡が流行しました。
貴族は当初庶民の文化を嫌悪しましたが、次第に受容していきました。
猿楽
滑稽なものまね、曲芸などが発展した芸能
代表的な歌謡集
『
梁塵秘抄』
後白河上皇が今様を集成した歌謡集
異常な今様狂い―後白河上皇
後白河上皇は
今様狂いの上皇として有名です。今様は本来庶民が楽しむ「
卑
しい」歌謡で、上皇がとりつかれるのは破格なことでした。
後白河は10歳頃から今様に打ち込み、昼夜問わずに歌い続いて3度も声帯を潰しました。上手と聞けば、京の男女・地方の遊女など身分を問わずに教えを
乞
いました。後白河の振る舞いは、鳥羽上皇をはじめ貴族らの批判を受けました。
院政期の文学と絵画
文学
地方・武士の動きに関心が高まったことで、合戦を題材にした軍記物語が書かれ、また、時代の転換期を感じて歴史に関心が高まったことで、歴史物語が書かれました。
軍記物語
『
将門記』
平将門の乱(935~40年)を記す、最初の軍記物語
『
陸奥話記』
前九年合戦(1051~62年)を記す軍記物語
歴史物語
『
大鏡』
藤原道長を中心とする摂関政治の栄華を批判的に記述した歴史物語
『
栄華物語』
藤原道長の栄華の賛美を中心とした歴史物語
『大鏡』『今鏡』に鎌倉時代の『水鏡』と南北朝時代の『増鏡』を合わせ、「四鏡」と総称
『六国史』のような歴史書が漢文で記述されたのに対し、歴史物語はかな書き和文で記述
その他
『
今昔物語集』
インド・中国・日本の仏教説話を和漢混淆文で記した説話集
絵画
大和絵の手法による絵に詞書を織り交ぜて時間進行を表現する絵巻物や、扇形の紙に経文を書いて装飾した写経(装飾経)が作られました。
大和絵の手法は、例えば「吹抜屋台ふきぬきやたい」「引目鉤鼻」
吹抜屋台
引目鉤鼻
絵巻物
『
鳥獣戯画』
動物を擬人化して、貴族社会や仏教界を風刺した作品
『
源氏物語絵巻』
紫式部が著した物語を絵画化した作品
『
信貴山縁起絵巻』
信貴山
の毘沙門天信仰の霊験縁起談を描いた作品
装飾経
『
平家納経』
平氏一族の繁栄を祈り、安芸国の厳島神社に奉納された装飾経
『
扇面古写経』
扇形の紙に、京の民衆の生活を描いた装飾経